2016秋季一次予選組合せ
思考
人生の3分の2は野球のことを考えてきた。みうらじゅん風
歩いていても、電車の中でも、運転中も、仕事中も、授業中も、テレビを観ていても、食事中も、風呂でも、トイレでも。。。
テレビで見た一流選手のプレーやビデオで見た自分の好プレーを思い出しては気持ちよくなり、常に上達の方法を考えているから、ヒントになるようなことが目に留まったり、突然おもしろいことがひらめいたりする。
決して頑張って考えているのではなく、自分の中でそれが一番大切なことだから自然にそうなる。
上達するしないの差は、練習量の差というより、こういう思考の差なのだと最近わかった。
思考は練習の量を補うと共に、練習の質を高める。
スマホを弄ってSNSやゲームに精を出すのはほどほどにして、自分の人生で一番大切なことについて考えてみよう。
本当にやるべきことがわかるはずだ。
小野路の交差点
勝者の態度
今日、ミーティングで【勝者の態度】について話したが、その中で一番重要なことをここに残しておく。
それは、相手のミスに期待しないこと。
例えば、二死満塁の場面でバッターが平凡なゴロやフライを打ち上げると、ベンチから「やるぞ、やるぞ!」とか「落とせ!」といった声が出る。
「打ち損じたが棚ボタで何とかならないか」という虫のいい願望や、打球を処理している野手にプレッシャーをかけたいという意図が感じられるが、それは人情というもの。
1点差や同点の試合なら尚更だ。
しかし、こういう心の在り方は自らの成長を妨げるから要注意。
自分たちの行動の結果を受け入れることができない人間に、そのあと何ができる?
もっと酷いのは、実際に相手にミスが出た時に大喜びしてはしゃぐ姿。
相手のミスに期待した延長線上にある最も醜い行為だ。
そしてこれは、“相手に期待する=セルフコントロールを軽んずる”ことを習慣化する。
小学生の試合で、相手のミスに子供と一緒になって歓喜する大人を見た時の嫌悪感といったらなかった。
そういうメンタリティーを戒めて子供の成長を助けるのが大人の役目だろうに。
とは言っても、人の心はすぐには変わらないもの。
だから、態度から変えていくといい。
具体的には行動の焦点を相手ではなく自分たちに当てるようにする。
先の場面では、平凡な打球を打ったバッターに「走っとけ!」とか「駆け抜けろ!」と声かけをする。
そして、相手にミスが出てそのバッターが生きた時には「ナイスラン!」とか「よく諦めなかった!」と褒めてやる。
仕上げに「次は打って返すぞ!」と自分たちを鼓舞する。
つまり、相手のミスに期待するのではなく、相手のミスに備えるという態度だ。
逆に相手に好プレーが出た時には、自然に「ナイスプレー!」という声かけや拍手ができるようになりたい。
どんな時でも、野球選手として良いものは良い、素晴らしいものは素晴らしいと認められる心を持っていれば、次は自分がやってみせるという意欲が湧いてくる。
“心が変われば態度が変わる”というが、“態度を変えれば心も変わる”という逆も真なり。
勝者に相応しい態度で勝者に相応しい心の在り方を身につければ、野球のレベルがもう一段上がる。
打撃のエッセンス
今やYouTubeで検索すれば現役はもとより往年の一流選手の映像が繰り返し見られる時代。
つまり、誰もが一流選手のやっていることを確認できるということ。
しかし、面白いことに同じ映像を見ても人によって見えるものが違う。
これは知識・経験・先入観の違いからくるらしい。
信念の違いと言ってもよいだろう。
僕は「上手い奴ほど簡単なことをやり、下手な奴ほど難しいことをやる」と思っているので、一流選手のやっている簡単な方法をマネしたい。
次回から【打撃のエッセンス】というテーマで、ここ3年間高校生に教えてきたことをできるだけ簡潔にわかりやすく書いていこうと思う。
「エッセンス」とは本質とか真髄という意味。
プロの一流選手が体現している合理的打撃動作のエッセンスを知れば、バッティングが必ずしも運動神経や身体能力だけの勝負ではないことがわかるだろう。
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なぜステップするのか
ほとんどのバッターはスイングの前にステップします。
あなたもスイングの前にステップするでしょう?
では、なぜステップするのでしょうか?
その答えを見つけるために、まずステップしないでスイングしてみましょう。
あらかじめ普段ステップして着地する場所に前足を置いておいて、その足を動かさずにスイングしてみてください。
それから次に普段通りステップしてスイングしましょう。
どうですか?違いがわかりますか?
おそらくほとんどの人がステップしないとスイングが弱くなると感じたでしょう。
そして、その弱いスイングを少しでも強くしようと目一杯腕に力を入れたと思います。
ステップしないと腕力に頼らざる負えなくなるということは、十分に下半身が使えていないということです。
つまり、バッターがステップするのは下半身を使って強くスイングするためだとわかります。
では、なぜステップすると下半身が使えるのでしょうか?
それはステップした時に後足から前足に体重が移動するからです。
これには少し説明が必要です。
下半身の役割は腰を回すことによってスイングの初速を作り出すことです。
止まっているものは止まり続けようとし、動いているものは動き続けようとする(慣性の法則)ので、止まっているバットを振り出すスイング初期に一番大きな力が必要となります。
その力を生み出すのが大きな重さをもった腰の回転なのです。
そして、この腰の回転は前足股関節の内旋によって起こります。
股関節の内旋とは膝やつま先を内側に回す動作のことですが、体重をかけて前足が地面に固定されれば、股関節の内旋は腰の回転を引き起こします。
ですから、前足に体重が移動して前足がしっかり固定されれば力一杯腰を回すことができます。
反対に前足に体重がかからず十分に固定されなければ、思うように腰を回すことはできません。
これがステップをした時としない時の違いなのです。
↑前足股関節の内旋(腰の回転)でスイングの初速を作る(止まっているバットを振り出す)ケン・グリフィー・ジュニア
打撃のエッセンス(2) 腰を強く回すには
さて、前足股関節を内旋することで腰が回るわけですが、この動きをより強力にするためにスイング直前にその股関節を外旋します。
ステップの際に、(これは日本人に多いのですが)前足が着地する直前まで前膝がキャッチャー側を向いていても(内旋位)、着地する時には膝とつま先がピッチャー側を向くようにしてください(外旋位)。
長嶋茂雄
篠塚和典
筒香嘉智
デービッド・オルティス(MLBにはステップの際に前足股関節を内旋する選手はほとんどいない)
ピッチャー側と言ってもまっすぐピッチャーに向けるのではなく、右バッターなら一塁手~二塁手、左バッターなら三塁手~遊撃手の方に向けます。
このように前足股関節を外旋して(前膝を開いて)ステップすることで、まずそれにつられて腰が回り始め、次の瞬間力強く内旋する(腰を回す)ことでができます。
垂直跳びを思い出してください。
直立姿勢から助走をつけずに両足の力でできるだけ高くジャンプします。
この時、あなたは一旦しゃがんでから跳び上がると思います。
腰と膝を曲げてから一気に伸ばすでしょう。
目的の動作の前に関節を反対方向に動かす、つまり反動をつけるのです。
スイングでもこれと同じことをやります(内旋する前に外旋)。
前膝を開いてステップする。
これが腰を強く回す秘訣です。
打撃のエッセンス(3) スイングのトップ
さて、前足をステップした直後にバットが動き出してスイングが始まるわけですが、ここには信号機があります。
信号機のサインは3つ ―― そのまま行け、一瞬待て、止まれです。
ほとんどのバッターはストライクゾーンに来る速球にタイミングを合わせてステップすると思いますが、当然のことながら変化球が来ることもありますし、ボールになることもあります。
そんな時は一瞬待ってからスイングしたり、スイングを止めたりしなければなりません。
それができるようにスイングの直前にある姿勢を入れておきます。
これをスイングの【トップ】と呼びます(過去の記事「バッティングのトップ」参照)。
プロでも一流と言われる選手のスイングでは、バットが動き出す前にこの姿勢が現れます。
《NPB》
王貞治(通算868本塁打、2年連続三冠王、MVP9回)
長嶋茂雄(MVP5回)
野村克也(通算657本塁打、三冠王1回、MVP5回)
門田博光(通算567本塁打、MVP1回)
落合博満(通算510本塁打、三冠王3回、MVP2回)
松井秀喜(日米通算507本塁打、MVP3回)
松中信彦(三冠王1回、MVP2回)
《MLB》
テッド・ウィリアムズ(史上最高打者、三冠王2回、MVP2回)
ジョー・ディマジオ(56試合連続安打、MVP3回)
スタン・ミュージアル(通算3630安打、MVP3回)
ウィリー・メイズ(通算660本塁打、MVP2回)
ミッキー・マントル(通算536本塁打、三冠王1回、MVP3回)
ハンク・アーロン(史上最高の右打者、通算755本塁打、MVP1回)
フランク・ロビンソン(通算586本塁打、三冠王1回、MVP2回)
カール・ヤストレムスキー(三冠王1回、MVP1回)
レジー・ジャクソン(通算563本塁打、MVP1回)
マイク・シュミット(通算548本塁打、MVP3回)
ジョージ・ブレット(3ディケイドで首位打者になった唯一の選手、MVP1回)
マーク・マグワイア(通算583本塁打、シーズン70本塁打)
ケン・グリフィー・ジュニア(通算630本塁打、MVP1回)
バリー・ボンズ(通算762本塁打、シーズン73本塁打、MVP7回)
アレックス・ロドリゲス(通算696本塁打、MVP3回)
アルバート・プホルス(現役36歳、通算591本塁打、MVP3回)
ミゲル・カブレラ(現役33歳、三冠王1回、MVP2回)
マイク・トラウト(現役25歳、MVP1回)
ブライス・ハーパー(現役24歳、MVP1回)
《おまけ》
錦織圭(世界ランキング最高4位のテニスプレーヤー)
【トップ】の姿勢がとれれば、変化球が来ても「あとは肩が開いてバットが飛び出すだけ」という状態で一瞬待つことができます。
もちろんそのままスイングすることも、スイングを止めることもできます。
では、写真を見ながらこの姿勢をマネしてみましょう。
まず、ステップした前足を外旋しながら(膝とつま先をピッチャー側に向けて)着地します。
前膝は突っ張らず少し曲げておいてください。
体重はできるだけ前足にかけます。
6:4でも7:3でもいいので「前足>後足」にしてください。
後膝はホームプレート側ではなくピッチャー側に送られ、体重がかかっていない分、後足の踵もしくは外側が浮きます。
前足の外旋に(前膝が開くのに)つられて腰はすでに開き始めているので、まだ開かない肩との間、つまり体幹部分に捻じれが生じます。
野球界ではこれを「割れ」と言います。
ピッチャー側の脇腹から背中にかけてストレッチ感があれば「割れてる」証拠です。
グリップは肩の高さでキャッチャー方向に引き、バットは頭の後ろで45°くらいに傾けます。
最後に腰を引いてお尻を後ろに突き出せば出来上がりです。
この説明が難しいという人は何回かボールを投げる動作をしてみてください。
そして、前足が着地して前肩が開く直前で止まってください。
これがスローイングの【トップ】です。
その状態でお尻を後ろに突き出し両手をキャッチャー側に引けばスイングの【トップ】になります。
長嶋茂雄のスローイングとスイングの【トップ】
スローイングもスイングも下半身の力や重さを使って上半身を振るというシステムは同じなので【トップ】も似たような姿勢になります。
打撃のエッセンス(4) スイングの始動
【トップ】はスイングの始点でバットが動き出す直前の状態です。
ステップと同時に【トップ】の姿勢を作ってからスイングします。
前述のように、スイングの初速は前足股関節の内旋が引き起こす強力な腰の回転によって生み出されます。
前足股関節の内旋とはつま先を内側にひねることですが、前足が地面に固定されていれば、つま先が回る方向とは逆方向に腰が回ります。
ステップの時に曲げていた前膝を伸ばしながらこの動作を行うことでスイングが始まります。
さて、ここで重要なのは、ただ腰を回すのではなく、前膝を伸ばしながら腰を回すことです。
なぜなら、この前膝を伸ばす動作には「後腰を直線的に動かす」という目的があるからです。
前足股関節の内旋は当然のことながら前足股関節(前腰)を軸に行われますから、そのまま腰を回せば後腰が弧を描いてホームプレート側に出ていくことになります。
後腰が弧を描けばバットのグリップも同じように弧を描きます。
これではいわゆるドアスイングになってしまいインサイドアウトにバットを振ることができません。
↑チェイス・ヘッドリーのトップからインパクト―――後腰がトップ時のお腹のラインを越えてホームプレート側に出てきている典型的なドアスイング
そこで、前膝を伸ばして前腰を背後に逃がすことで、後腰がピッチャー方向に直線的に動けるようにします。
こうすることでインサイドアウトのスイングが可能となります。
↑ブライス・ハーパーのトップからインパクト―――後腰がトップ時のお腹のラインを越えずピッチャー方向に直線的に動く理想的なスイング
↑マイク・トラウトのトップからインパクト―――後腰がトップ時のお腹のラインを越えずピッチャー方向に直線的に動く理想的なスイング
打撃のエッセンス(4) トップでタメる
ピッチングマシンのように同じ球速のボールしか来ないとわかっている場合は、タイミングさえ合っていればステップと同時にスイングを始めてもそこそこ打てるでしょう。
しかし、投手が様々な配球で打者を打ち取ろうとする実際の試合では、そう簡単にはいきません。
ステップした時すでに肩が開いていたらどんなボールか見極められませんし、それが変化球だったら呼び込むこともできません。
たまたまタイミングが合ったボールしか打てない、いわゆる「ワン・タイミング」のスイングになってしまいます。
そうならないために、投手の一番速いボールに合わせてステップし【トップ】の姿勢を作ってからスイングします。
球種やコースによってスイングを遅らせたければ、前膝を伸ばさずに前脚股関節の内旋を我慢し、腰と肩の開きを一瞬止めます。
【トップ】は「あとは肩が開いてバットが飛び出すだけ」という状態ですから、この姿勢のまま一瞬待っても次の瞬間すぐにスイングできます。
これが「トップでタメる」ということです。
「タメる」というと後足でタメると思っている人が多いかもしれませんが、実際に球種やコースがわかるのはステップの最中なので、タメるのはステップ後、つまり前足に体重を移してからなのです。
これを間違えるとおかしなことになります。
打撃のエッセンス(6) スイングの加速
さて、腰を回すことで肩も回り始め、同時にバットも動き出します。
スイングの初速が生まれたわけです。
次にこれを加速しなければなりませんが、それには【トップ】での「割れ」が必要不可欠です。
【トップ】では止まっている肩と開き始めている腰との間に「割れ」と呼ばれる体幹の捻じれが生じていますが、インパクトの時にはそれが解消され、胸とおへそが等しくピッチャーに向いています。
遅れて動き始めた肩が先行する腰に追いつくということは、肩の動きが腰のそれより加速しているということです。
トップで肩と腰が割れているアレックス・ロドリゲス
インパクトでは肩が腰に追いついて「割れ」が解消している
これは、割れた時に伸ばされた腹や背中の筋肉が、伸張反射によって強く収縮するためです。
伸張反射とは伸ばされた筋肉が瞬間的に縮もうとする反射のことで、これを利用することで楽に速く動くことができます。
この肩の動きによってバットのグリップがピッチャー側に引っぱり出され、その直後、腕の力で加速されながらバットがムチのようにボールを捉えます。
このように、下半身で作られたスイングの初速を体幹や腕の力でタイミング良く加速していくことで、球威に負けない強力なスイングができるのです。
ここでひとつ注意していただきたいことがあります。
それは「強力なスイング」は「力んだスイング」ではないということです。
下半身からバットのヘッドまでをムチのように使ってスイングを加速するには、順番を間違えずに絶妙のタイミングで体幹や腕の力を発揮しなければなりません。
これを一瞬とも言えるスイング中に意識的にやるのは無理ですから、無意識でやるしかありません。
それには脱力が必要です。
上半身の力を抜いて腰を回せば、体幹が「割れて」伸張反射を起こし、自然に肩が加速します。
また、腕は胸が向いた方向に自然に伸びてバットを加速します。
力まずに脱力することで「強力なスイング」が獲得できるのです。
打撃のエッセンス(7) 「く」の字でスイング
バッターはボールを打つためにホームプレート側でバットを振ります。
フォロースルーで減速したバットが背中側まで回りますが、あくまで高速で振るのはホームプレート側です。
この時、体をまっすぐ立てていたら振ったバットの遠心力で体はホームプレート側に倒れてしまいます。
ヘッドスピードが速ければ速いほどバットの遠心力は強くなりますから、倒れないようにするにはバットをゆっくり振るしかありません(というか、無意識にそうしてしまっている選手が多いのです)。
しかし、これでは本末転倒です。
そこで、体のバランスを保ちながら高速でバットを振るために、腰を背中側に突き出し上半身を傾けて「く」の字を作ります。
右バッターならキャッチャーから見て、左バッターならピッチャーから見て「く」の字です。
ホームプレート側で高速に振られるバットのカウンターバランスとして、腰をホームプレートから遠ざけるのです。
そもそもこれは「打撃のエッセンス(5) スイングの始動」で述べた「前膝を伸ばして後腰を直線的に動かす動作」によって得られる姿勢ですから、腰を回す動作とワンセットです。
この「く」の字を作りながら腰を回す動作を、野球を国技とするキューバの指導者は「前腿の内側に後腿をぶつける」と表現するそうです。
「後腿を股間にねじ込む」と言ってもいいでしょう。
つまり、前足股関節の内旋と同時に後足股関節も内旋するのです(過去の記事「「く」の字の作り方」参照)。
これが、体のバランスを崩さずにヘッドスピードを上げる秘訣です。
2016シーズン終了
玉川学園野球部はおととい日曜日の練習試合で今季の試合日程をすべて終了。
昨日から中間テスト前のオフ期間に入った。
テストが終わる頃には“アウトオブシーズン”なので、これから3か月間は素晴らしい春を迎えるための準備となる。
さて、【チーム2017】のこれまでの対戦成績はというと14勝9敗3分。
久々の勝ち越し。
しかし、肝心な秋季一次予選は初戦敗退。
このギャップをどう埋めるか?
それは、先輩たちがやってきたことを見ればわかるはずだ。
今季最終戦で猛打賞の松前(2年)
打撃のエッセンス(8) 投球線とスイング面
さて、いよいよ加速の最終段階にあるバットがインパクトを迎えます。
このとき重要なのは、ホームプレート上でバットの軌道(スイング面)がボールの軌道(投球線)と一致することです。
つまり、「投球線に沿ったスイング面」を作るということですが、これは「く」の字でスイングすることによって自然に現れます。
ただ、それにはひとつ条件があります。
グリップを体から離さないことです。
肩が開ききる直前まで、後の腕を伸ばさないのです。
左腕を畳んだまま肩を回すケン・グリフィー・ジュニア
右腕を畳んだまま肩を回すアルバート・プホルス
こうすることで、バットは腕で操作されることなく、肩の動きについて行くことになります。
そして、斜めに回る肩が作るスイング面は水平の投球線に沿ったものとなります。
より厳密に、マウンド上からやや下向きに入ってくる投球線に沿ったスイング面を作りたければ、上半身をキャッチャー側に傾けます。
こうすると、投球線の下向き角度が大きくなる低めのボールや変化球への打撃が効果的になります。
このような「投球線に沿ったスイング」なら、少々差し込まれたり泳がされたりしてもタイミングのズレをカバーしてライナー性の打球を打つことができます。
また、バットとボールが中心衝突するので、芯で捉えれば長打になりますし、芯を外しても内野の頭を越えることが多くなります。
これとは対照的に、投球線に対してダウン過ぎるスイングやアップ過ぎるスイングは、投球線とスイング面が一点でしか交わりませんからタイミングが命になります。
また、打てたとしても中心衝突しない(ボールを擦ってしまう)ので、スイングの力を十分打球に移すことができません。
野球は体操やフィギアスケートのように技の難易度を競う採点競技ではありません。
「ダウンスイング」のような難しい打ち方で打ってもシングルヒットがツーベースになったりはしないのです。
ですから、確率が高く易しい「投球線に沿ったスイング」で打つことをお薦めしますし、一流選手ほどそうしているものです。
(注)今回、絵心のない僕のためにバンダイさんが作ってくれたモデル用フィギア「ボディくん」を使って撮影しましたが、肩を傾けることはできるものの、構造上「く」の字を表現することはできませんでした。それでも、スイング面の立体的なイメージを表現するという目的は達成されたと自負しております。
打撃のエッセンス(9) グリップを消す
投球線に沿ったスイング面は傾いて回る肩の動きで作るので、スイングが始まってもすぐに後の腕を伸ばさず、グリップが体から離れないようにします。
こうすることで、バットが体に巻きつきながら肩の動きについて行きます。
後の腕を伸ばしてグリップを押すのは、後肩が十分加速して胸がピッチャーに向く直前です。
それまでは、腕の力を抜いてそのタイミングに備えます。
この時重要になるのがグリップの脱力です。
体力測定で握力計を握ったことがあると思いますが、強く握ると手首や腕が硬直します。
こんな状態ではバットが体に巻きついてくれません。
それを防ぐために必要最小限の力でバットを握りますが、これを【グリップを消す】と表現します(過去の記事「グリップを消す」参照)。
つまり、腕とバットが一体と感じられる状態です。
バットの重さを感じながらもバットを握っている感覚がない。
握っている感覚がないから手でバットを操作することもない。
「く」の字を作りながら肩を回せばバットの芯が勝手にボールを捉えてくれる。
こんな理想的な状態になるにはグリップの脱力が必要不可欠なのです。
以下は一流選手のホームラン直前の脱力がわかる動画です。
見送った瞬間バットを手の中で滑らせるレジー・ジャクソン
直後の打球は推定飛距離164mの歴史的ホームラン
見送った瞬間バットを落としてしまうロベルト・クレメンテ
打撃のエッセンス(10) ボールの見送り方
バッターは投球毎にステップした時点でスイングするかしないかを決めるわけですが、この時必ず「あとは肩が開いてバットが飛び出すだけ」という【トップ】の姿勢ができていないといけません。
【トップ】に入らずに、つまり体重を後足に残したままだったり前膝をキャッチャー側に向けたままボールを見送っていると、いざスイングしようとしてもすぐにバットが出てきません。
当然振り遅れるか、慌てて手打ちになるので、打ち損じる可能性が高くなります。
よく強打者に対して「雰囲気がある」という表現をしますが、ボールを見送る時にちゃんと【トップ】に入っているバッターは、どんなボールでも打ちそうな印象を与えるものです。
また、そんな強打者の中にはボールを見送る時にバットのヘッドをキャッチャー側に落とす選手がいます。
これはグリップに無駄な力が入っていない証拠で、こういうバッターは腰が回った次の瞬間バットがジャックナイフのように飛び出し、目の覚めるような鋭い当たりを放ちます。
手でバットを操作することなく、グリップが体から離れないので、腰が回りきってもバットのヘッドが後ろに残っており、その分インパクトゾーンでのヘッドの加速度がすばらしいわけです。
グリップが脱力していると見送る時にヘッドが落ちるのですから、脱力したければ見送る時にヘッドを落とす癖をつけるといいでしょう。
打撃のエッセンス(11) バッターの目線
バッティングの基本のひとつに「ボールをよく見る」というのがあります。
球種やコースを見極めるために球筋をよく見ることは大切ですが、これと同じ意味で使われる「インパクトまで見る」というのは現実的ではありません。
一流選手たちの目線を確認してみてください。
球速が120km/hを超えると、ピッチャーのリリースからインパクトまでの時間は0.5秒もかかりません(リリースポイントからインパクトまでを17mとして計算)。
スイングの始点であるトップからインパクトまでの時間はおよそ0.15秒ですから、バッターが決断してスイングし始める時、ボールはバッターの約5m前方にあることになります。
バッターはリリースから5m前方までの球筋を見て、ホームプレート上のどこにボールが来るかを予測し、そこに向かってスイングするのです。
人間の目は120km/hで迫ってくる直径7cmのボールにピントを合わせ続けることはできません。
ですから、ピッチャーがボールをリリースする直前に、先回りしてスイングを決断する5m前方に目線を移します。
目線を移してもそこに焦点を合わせるわけではなく、リリースポイントも視野に入るようにぼんやり見ます。
こうすることでボールの軌道を“線”として捉えることができます。
ボールが近づくにつれ視野は狭まり、5m前方に達する頃にはボールにしっかりと焦点が合います。
この後2m前方くらいまで、つまり視界から外れるまでボールは見えていますが、インパクトまでは見ることはできません。
これを頑張って見ようとすれば肝心なリリースからの球筋が見えなくなりますし、すでにスイングが始まっていてバットの軌道修正などできないインパクト直前までボールを見ることに、そもそも何の意味もありません。
それよりも大切なことは、5m前方までの球筋からホームプレート上の球筋を予測する感覚を養うことです。
フリーバッティングという練習はそのためにあるのです。
最後に、自他共に認める史上最高のバッター、テッド・ウィリアムズのコメントを、著書『The Science of Hitting』(邦題『バッティングの科学』)から引用します。
“見る”ということはどういうことだろう。私の視力は0.5(※)だ。人並みである。
誰かが私が回転しているレコードのラベルを読めると書いていたが、そんなことはできない。
バットがボールを打つ瞬間も“見る”ことはできないが、それは感覚でわかる。
優れた大工は金槌が釘に当たるのを見ることなく、いつでもきちんと釘を打つものだ。
私は視力が優れていたのではなく、たくさん練習したのだ。
※欧米と日本の視力検査は同じではないので数字は参考程度に。本人が「人並み」と言っているのだから人並みなのだろう。
打撃のエッセンス まとめ
最初にも書いたが、僕は「上手い奴ほど簡単なことをやり、下手な奴ほど難しいことをやる」と思っている。
上手い奴がやる“簡単なこと”とは合理的なことであり、下手な奴がやる“難しいこと”とは非合理的なこと。
いくら身体能力に恵まれていても、難しいことをすればそのアドバンテージは相殺されてしまうし、逆に身体能力に恵まれなくとも、簡単なことをすればそれを補って余りある効果が得られる。
プロの中でも球史に名を残すような一流選手は、抜群の身体能力に甘んじることなく、というか、それを十二分に発揮すべく、合理的動作を追求してきた。
その姿から抽出されるエッセンスは、われわれ凡人の常識とは真逆のものだったりするので、なかなか理解しがたい。
だから、少数派の上手い奴はどんどん上手くなり、多数派の下手な奴はずっと下手なままなのだ。
いつでも始動できるトップの姿勢から、下半身でスイングの初速を生み、体幹の割れで加速し、投球線に沿ったスイングでバットとボールを中心衝突させる。
身体能力や運動神経だけで勝負するのではなく、この合理的打撃動作を追求すれば、バッティングはもっともっと楽しくなる。
選手別ハイライト動画
玉川学園では半年~1年に一度、各選手のバッティングのハイライト動画を作成している。
安打、凡打を問わず良いバッティングの映像を集めて編集している。
選手には「何度も見てニヤニヤしろ」と言っている。
何度も見ると、見ていない時も頭の中で良いバッティングが繰り返される。
人間の脳は現実と想像の区別がつかないので、実際の何百倍も良い当たりを飛ばしていることになる。
歩いていても、電車に乗っていても、何気なく頭に浮かんだ映像が成功体験を繰り返し心に刷り込むのだ。
下手に試合を増やすより、このほうがいいかもしれない。
何しろ頭の中ではみんな10割バッターなのだから。
卒業生のハイライト動画(2年前)